SCHRAMM / ユルグ・ブットゲライト
口紅殺人鬼の真実
とある孤独な殺人犯の隠された真実と、死の瞬間の走馬燈。
誰あろうユルグ映画でございますゆえ、走馬燈はゆるーりと、せつなく甘酸っぱく回るのですが、ハタメには単なる……つーか格別?情けない生涯にしか見えないのがこれまたウウっと額に汗する、ダウナーな秀作ですよね・・・。
主人公は世間を恐怖のズンドコに陥れている、通称、口紅殺人鬼。
実は性的コンプレックスがあるために、生身の女性を相手にできない小心もののおじさんでした。
という、考えようによっちゃ誰もがちょっとギクっとしそうな、いたたまれない身近な話?
いわゆる、パンツの中に隠しておきたい、誰にでも有り得るコンプレックスと、役に立たないプライドってやつを、赤裸々にぐさぐさ刺しまくるこの映画。
当然いろいろやりすぎちゃって、当時上映に待ったがかかったらしい。
もちろんブットゲライトさん常習犯だったから、世界中が驚かない。
なんと申しましょうか、妙なリアルさがございますよね・・・。
何がリアルかって、主役のおじさん。
わりとどこにでもいそうなんですよ・・・。
頭ハgあがってるし腹はぷよんぷよんだし、胸毛はハジケまくってるし確かに残念な中年男なんだけど、顔だけみれば結構かわいかったりいたしますし。
ともすれば私たちの日常のフレーム内に居そうでいて、しかし決してピントが合うことのない一人の男の孤独と、とことんみじめに思える日常。
この映画では、そこを覗き見る私たち、という後ろめたさも痛い。
なんと言っても泣けるのは、内向的で他人と社交的な関係を築けない彼の、日ごろの慰めが、空気でふくらませるタイプのあまりにもチープでダイレクトでダイジェストなラブドール、というくだり。
潔癖性な彼だから事後はすばやくお手入れもして、末永く使いこんじゃいそう。
しかしそんな彼にもある日、バラ色のチャンスがやってきます。
なんと、ひそかに思いを寄せているおとなりの娼婦を、酔わせることに成功!!
早速酒にクスリを混ぜて完璧に彼女を眠らせてから……、
何をするかと言うと・・・・・、
ひ、ひ、ひとりエッチにふけるのであります。
ん?んん~~~っ?
な、な、なんですと??
殺人鬼が、娼婦を、眠らせて、眠った娼婦をオカズに、ひとり、エッチ?
ああユルグ!!なぜにそこまでナナメ上空旋回描写を思いつく!!
その殺人鬼キャラの行動バランスの非凡さたるや、全ての人にジャーマンスープレックスでトドメさすような破壊力があります。
口紅殺人鬼の孤独は、そのような、現実を遠回りに迂回していくようでいて、彼なりのこだわりや情けなさがシェイクされた独自の選択によって築かれてきたってワケなのだろうか。
もちろんそんな人生の締めくくりの瞬間に、ファンファーレが鳴るわけもなく。
頼りな~い脚立に立って、さっきのお客を惨殺した際、血糊でブシュっと汚れたカベを、ハダカでペンキ塗りのさなかバランスを崩し落下します。
そしてあの世へ。走馬灯終わり。
まあ、このなんともいえない後味は、ああでもないこうでもないと自分なりの着地点を探してしまうような、ウエットな余韻を残してくれます。
思わず腹式呼吸で真剣勝負なため息をついてしまうような、冥土の土産クラスの、ドラマだったと思います。
ちなみに娼婦役はネクロマンティックにも出てたモニカ・M。
ぶっちゃけ、めっちゃかわいいのですぞ。
2005年2月
「シュラム 死の快楽」データ
SCHRAMM 1993年 ドイツ
監督
- ユルグ・ブットゲライト
出演
- フローリアン・コエルナー
- モニカ・M
- カロリーナ・ハルニッヒ
- ミーシャ・ブレンデル